《オベロン》序曲には、オペラ(正確にはジングシュピール)のなかの旋律が使われています。どの場面のどのようなアリアか、調べてみました(以下、歌詞の日本語訳は主に「オペラ対訳プロジェクト  https://www31.atwiki.jp/oper/pages/371.html」を用い、部分的に直訳に戻しました。詳しいあらすじは [24]《オベロン》:妖精王は何を誓うのか参照)。

序曲冒頭のホルン・ソロ。ニ長調のドーレミと順次進行で上行する3つの音は、もちろんオベロンの魔法の角笛。呼びかけるような静かなホルン・コール、わくわくします。序奏部のちょこちょこした動きの音楽は、妖精たちの動きでしょうね。

アレグロの主部。ダン、ダン、ダンという伴奏の上で上下に細かく動く第1主題が始まります。これは、第2幕第2場の4重唱。騎士ヒュオンと従者シェラスミンがバグダッドでバベカン王子を倒し、レツィアと従者ファティマを救い出した場面です。

まず男性2人が「ダークブルーの水の上」と歌い出し、女性2人が続きます。第1主題は「それでは船に!」からの4重唱の伴奏部分。首尾よく任務を遂行し、この船でフランスへ!という喜びのアンサンブルを盛り上げます。でも、オベロンはこの船を難破させてしまうのです(序曲の旋律は 1:20 過ぎから1)。

ダークブルーの水の上
広い広い海の上!
アラビアの娘たちのうちの一番の美女よ
さあ 私と一緒に船出してくれるかい? さあ!

たとえ海が果てしなく続き
広い広い海に岸辺がなくても
なお恐れることはないでしょう このアラビアの娘は
あなたと一生 航海するのです

それでは船に!-それでは船に乗りましょう 乗りましょう!
空が明るい間に
そして優しい風が吹いているうちに
私たちの心はこの船体のように揺るぎなく
私たちの希望は日を浴びた帆のように輝いています
船に 船に乗りましょう!
空が明るい間に!
船に 船に乗りましょう! 優しい風が吹いているうちに
船に 船に乗りましょう!

クラリネットの甘い第2主題は、第1幕第2場最後のヒュオンのアリア「少年時代から」の中間部「穏やかな光、優しい光線が」。オベロンがヒュオンに幻で見せたレツィアを想って歌います。この旋律は、序曲の再現部では省略されています(動画は「父の剣を手に」から始まり、序曲の旋律は 1:40 過ぎから2)。

少年時代から鍛錬してきた 戦場で! (中略)

父の剣を手に
父の名を誇りとし
ただひとりの女性を崇拝してきた
私の唯一の憧れ:栄誉を!栄誉を!栄誉を!
穏やかな光 優しい光線が
人生の幅広い流れを照らしている
美しき人の笑顔が今 和らげているからだ
栄光の閃光の真紅の輝きを(後略)

第2主題に続く(第2主題の後半とも考えられます)旋律は、第2幕第3場のレツィアの長大な「海のアリア」から。嵐で船は難破。ヒュオンは魔法の角笛を失くしてしまい、助けを探しに行きます。残されたレツィアが、通りかかる船を見つけて「急いで、急いで合図を」と歌う部分のオーケストラ伴奏がそれです。

助けが来たと喜ぶレツィアですが、実はこの船は海賊船。オベロンとティタニアのいさかいで始まったヒュオンとレツィアの試練は、まだまだ続くのです(序曲の旋律は 6:40 過ぎから3)。

海よ!強大なモンスターよ!
お前は緑の大蛇のように 世界のまわりにとぐろを巻く!(中略)

急いで 急いで合図を このスカーフを
このスカーフを振ってみましょう!
彼らは私を見ている!答えているわ!力一杯櫓を漕いでる!
ヒュオン!ヒュオン!ヒュオン!
ヒュオン!私の夫よ 私の愛よ 私たちは救われます!
私たちは救われます!私たちは救われます!

  1. Jonas Kaufmann, Marina Comparato, William Dazeley, Hillevi Martinpelto: Over the dark blue waters、https://youtu.be/OUfGMSZFKrw.
  2. Paul Frey: From boyhood trained, Edinburgh 1988、https://youtu.be/cDHpMnJkTAI.
  3. Maria Callas: Ocean! thou mighty monster!、https://youtu.be/8ERAydgZjTg.

《オベロン、あるいは妖精王の誓い》って、どんなストーリーかご存知ですか。《夏の夜の夢》にも登場するオベロンは、妖精の王様。奥さんは、妖精の女王ティタニアです。この2人が喧嘩する(《夏の夜の夢》と同じですね)ところから、お話が始まります。

オベロンは、13世紀フランスのシャンソン・ド・ジェスト(武勲詩)「ユオン・ド・ボルドー Huon de Bordeaux」に初登場。騎士ユオンはカール大帝の息子を殺してしまい、死刑を免れるために「バビロンの Gaudisse 王の宮殿で最初に会った男を殺し、王の娘エスクラモンドに3回キスし、王のひげと4つの臼歯を持って帰る」という難題を与えられます。でも、オベロンの助けを得てやり遂げることができました。

14世紀以降、1万行以上にも渡るこの長編詩に6つの続編とプロローグが加わり、3倍の長さに。1540年ころジョン・バウチャーにより英訳され、シェイクスピアもこの叙事詩を知ることになります。クリストフ・マルティン・ヴィーラントの叙事詩「オベロン」(1780)の元にもなり、主人公の名はヒュオンとレツィアに。ジェームス・ブランチェが英訳し、これがヴェーバーの台本の元になりました。

オペラ(正確にはジングシュピール)の場面はあちらこちらに飛びます。妖精の森からカール大帝の宮廷、バグダッド、アフリカのチュニスまで。ストーリーは複雑で、まとめるのが難しいのですが……1

第1幕 オベロンとティタニアが男と女のどちらが移り気か言い争い、逆境の中でも心変わりしないカップルを見つけるまで仲直りしないと誓う(これが妖精王の「誓い」ですね)。ボルドーの騎士ヒュオンがカール大帝に、ほぼ実現不可能な条件(バグダットに行って太守の右側に座った男を殺し、太守の娘レツィアにキスして結婚する)を与えられたことを知ったオベロンは、妖精の角笛をヒュオンに、魔法のゴブレットを彼の従者シェラスミンに与え、彼らをバクダッドに送る。

第2幕 ヒュオンはレツィアの結婚式に行き、彼女にキスし、夫バベカン王子を殺す。角笛を吹いて皆動けなくなった間に、ヒュオンはシェラスミンとレツィア、彼女の侍女のファティマと一緒に逃げる。しかし、フランスに帰る船が嵐で難破。アブドゥラに率いられた海賊船はレツィアをさらい、ヒュオンを置き去りにする。

第3幕 4人は奴隷にされている。チュニスの太守アルマンソルはレツィアを好きになるが、レツィアは拒む。アルマンソルの妻ロシャナは嫉妬し。夫を殺させ自分と結婚させようとヒュオンを誘惑するが、アルマンソルに見つかる。ヒュオンとレツィアが火炙りにされそうになったときオベロンが現れ、試練は終わったと告げる。オベロンとティタニアは仲直りし、ヒュオンはカール大帝に使命をやり遂げたと説明。ヒュオンとレツィアを称える合唱で幕。

数多い登場人物の中で、歌を歌うのは8人だけです。

  • 妖精王 オベロン Tenor
  • オベロンの従者 パック Alto
  • ボルドーの騎士 ヒュオン Tenor
  • ヒュオンの従者 シェラスミン Bariton
  • 太守の娘 レツィア  Soprano
  • レツィアの従者 ファティマ Mezzosoprano
  • 人魚2人 Soprano

カール大帝、バグダッドの太守、バベカン王子、アブドゥラ、アルマンソル、ロシャナらは、台詞のみで歌いません。妖精の女王ティタニアは、なんと黙役。台詞も言わないのですね。意表を突く設定です。

  1. 以下のあらすじは、Brown, Clive, “Oberon, or The Elf King’s Oath.” Oxford Music Online, https://doi.org/10.1093/gmo/9781561592630.article.O003858 を要約しました。

オケ奏者のコラム、長らくお休みしてごめんなさい。1ヶ月に1つなら書けるかも??と思ったのですが、甘かった。新しい講義科目の準備でてんてこ舞いのセメスターでした。ようやく(ほぼ)終わって、ほっと一息。あらら、まだインコ写真が6月のまま(8月に替えます)。

今回の聖フィル定期演奏会1曲目は、カール・マリア・フォン・ヴェーバー(1786〜1826)の《オベロン、あるいは妖精王の誓い》序曲。ヴェーバーの最後の作品ですが、どんなオペラか、妖精王が何を誓うのかご存知ですか。シェイクスピアの『夏の夜の夢』のオベロンかと思ったら、(そのオベロンですが)シェイクスピアでは無いんですね。なかなか複雑!!

ヴェーバー(英語読みのウェーバーの方が通りが良いですが)の名前には「フォン」が付きますが、貴族でも何でもありません。父の兄の娘が、モーツァルトの妻コンスタンツェでした。1821年にベルリンで初演した《魔弾の射手》が大評判に。23年《オイリアンテ》を作曲。

1824年8月18日、ロンドンのチャールズ・ケンブルから新作オペラの委嘱と、次のシーズンにイギリスに来て《魔弾の射手》《プレチオーザ》(1820年作曲の劇付随音楽)と新作を指揮して欲しいという手紙を受け取ります1。ヴェーバーは重い肺結核。医者には、もしロンドンに行くなら数ヶ月、もしかしたら数週間の命と警告されますが、家庭の経済状況を考え、委嘱を受諾。

ケンブルは題材として「ファウスト」と「オベロン」を提示。ヴェーバーは後者を選び、なるべく早く台本を送ってくれるように頼みました。しかし、台本到着は遅れ(第1幕は12月30日、第2幕は翌1825年1月18日、第3幕は2月1日着)、上演は1526年シーズンに持ち越されることに。

一方でヴェーバーは、1824年10月から英語の集中レッスンを開始。全部で153回もレッスンを受けたそうです。台本作者ジェームス・プランチェ(1796〜1880)とも英語でやり取りしました。ヴェーバーは台本について2月19日付けの手紙で、歌わない重要な登場人物が多すぎ、重要な瞬間に音楽が無いので、オペラと言えなくなってしまうし、ヨーロッパの他の劇場での上演が難しくなると危惧しています。

「歌わない登場人物」!?! そうです。正確に言うと《オベロン》はオペラではなく英語のジングシュピール(って何だか変ですが)。モーツァルトの《魔笛》のように台詞入りです。話すだけで歌わない役も多く、黙役までいるのです。このときは他に選択肢がありませんでしたが、もしもヴェーバーが長生きしていたら、ドイツの歌劇場で上演できるようにレチタティーヴォを追加して改訂したことでしょう。

1826年2月半ばにイギリスに出発するときには、オペラの大部分は既に完成していました。パリを経由し、3月4日にイギリス着。9日リハーサル開始。エネルギーを消耗するリハーサルやコンサート、社交の合間を縫って、ヴェーバーは作曲を継続。オペラの重要なアリアは、実際にリハーサルで歌手の声や得意な音域などを聞いて、それ活かすように作るものだからです。

3月23日には、当時非常に人気があったヒュオン役のテノール歌手、ジョン・ブレアムのために〈I revel in hope and joy〉を書き、3日後にレーツァのカヴァティーナ〈嘆きなさいお前、哀れな心よ Mourn thou, poor heart〉を完成2。さらに3日後にファーティマの〈おお、アラビアよ O Araby〉を作り、女声コーラス〈あなたのために美しい方は For thee hath beauty〉を編曲して、序曲以外完成。

と思ったら、ブレアムが〈少年時代から鍛錬してきた From boyhood trained〉の音域が高すぎると、違うアリアを要求。ヴェーバーはしぶしぶ、代わりの〈Ah! ’tis a glorious sight to see〉を作曲(4月6日)。序曲を作り終えたのは、初日のわずか3日前でした。ブレアムはさらに、自分の声を見せびらかすアリアをもう1つ望み、ヴェーバーは〈この恐ろしい時の支配者よ Ruler of this awful hour〉を書き加えています。

4月12日、約束通り作曲者の指揮により、コヴェント・ガーデン劇場で初演。序曲と多くのアリアがアンコールされ、《オベロン》成功!!! しかし、ヴェーバーの体はもう限界でした。初演後2ヶ月足らずの6月5日、ロンドンで客死(39歳)。次回は複雑なストーリーについて書きます。

  1. 以下の情報も含めて、Brown, Clive, “Oberon, or The Elf King’s Oath.” Oxford Music Online, https://doi.org/10.1093/gmo/9781561592630.article.O003858 に依ります。
  2. 歌詞の対訳は、オペラ対訳プロジェクト https://www31.atwiki.jp/oper/pages/371.html を参考にしました。

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